今年もチョコが日本中を飛び交う(青春の入り口編)

というわけで、いよいよ近づいてきたバレンタインデー。
ローマの殉教者、St.Valentineの命日にちなんで、欧米ではこの日、恋人同士がプレゼントを交わす日とされる。特にこの日は、女性が男性に愛を告白してもよい、とされたわけで、それは「愛の告白」などというものは、通常男性から女性にするものとされていた古き良き時代の「特別な」風習とでもいうものだった。だから特別な意味を持つこの日の存在意義があったのだ。
昨今では洋の東西を問わず女性から男性に告白することは日常茶飯事、とまでいかなくても珍しいことではないだろうから、このSt.Valentine’s dayは、欧米ではとりたてて意味のある日でもないのかもしれない。

ところが日本では、チョコレート業界全売上げのなんと9割がこの時期のものという、国民的一大イベントになってしまった。
仕掛け人は神戸のチョコレートメーカーといわれている。その商戦が大当たりし、いまや老いも若きも、国民全女性こぞってといっていいほどチョコを買い、「本命」以外の「義理チョコ」探しに精を出すという、なんとも日本的な風習を生み出しているのだ。b0036381_2130696.gif

さて、ご多分にもれず「義理チョコ」を買う私ではあるが、本当はこんな商魂にのってしまうのはイヤで、できればみんなが純粋にonly oneのチョコをあげるべきだと思っている。
だって、女性には本当はそれが一番幸せなはずだから。
中1のとき、初めてバレンタインにチョコを渡した、あのドキドキする高揚感は、たった1人の人に渡すから味わえるものだと思うからだ。

その頃、違うクラスのT君に憧れていて、彼にチョコを渡せたらなあ、と思っていた。そして、同じクラスで彼とバスケット部で仲の良かったO君に、T君のことをリサーチし始めた。
O君は面白がって、T君のことをいろいろと教えてくれた。「付き合ってる彼女?いないみたいだよ。どんな子が好きかって?髪の長い子みたい。ねえ、なんでそんなこと聞くの?」
「いや…ちょっとね。なんでもない」
このリサーチは3日ほど続き、そのたびに彼はニヤニヤ笑いながら「なんでそんなこと聞くの?」と尋ねた。答えはわかってるはずなのに。私は「いや、なんでもない」と答え続けた。

そしてある土曜日の午後。意を決して私は、親友と一緒にデパートにチョコを買いに行った。
あのときの、大人になったような気分は忘れられない。
デパートなんて、親と行くものと思っていた場所。そこに、友達と来ただけでも興奮する出来事なのに、さらにお互い好きな男の子のためのチョコを選びに来たという事実が、当時の13才の少女には十分すぎる、刺激的な体験だった。
といっても、チョコ選びなんてあっさりしたもの。
私の記憶では、現在ほど大規模で派手な売り場もなく、1ヶ所にチョコが集まっていた。その中でお小遣いで買える範囲の、せいいっぱい大人ぽいものを選んだつもりだった。
でも、そのチョコを学校に持っていくために包んだのがスヌーピーのランチバッグ。いかにも子どもの仕業ではないか。

チョコを買い用意周到となった私は、さらにO君に、T君のことをリサーチした。O君はついに「なんでそんなことばっかり聞くんだよ~、Tのことが好きなんだろ」と言い始めた。
「そんなことないよ」と苦し紛れに言う私にO君は人懐っこい目つきで「だったらなんでそんなにTのことが気になるの?」と問いかける。ついに私は「あの…だから…ちょっと憧れててね」と白状した。O君は我が意を得たとばかりに得意満面になり、さらにT君の攻略法などをいろいろ教えてくれた。当時、O君の斜め後ろの席が私で、休み時間ごとに交わすそういう会話はとても楽しかった。
そのうち、私は「T君にバレンタインのチョコあげたいんだけど、受けとってくれるかな?」と恐る恐る聞いてみた。O君は「そりゃあ、受け取ってくれるよ!」と、自分のことのように喜んで言った。

そして、いよいよ明日がバレンタインという、1976年2月13日。
「女心と秋の空」とはいうが、どういう心境の変化か――私は、急にO君にチョコをあげよう、と決心したのだ。
「白状」して以来、O君は自ら私に「Tはねえ~」などと、T君の話をするようになった。昨日の部活での出来事など、面白そうに解説してくれるのだ。その人懐っこい笑顔が私の琴線に触れてしまったのか?自分でもどうしてそういう行動をとったのかわからない。
とにかく、「O君っていい人だな」と思い始めた私は、話したこともないT君にあげるより、O君にあげよう、とバレンタイン前日に初心を覆してしまったのだ。

さて、当日。
スヌーピーの紙袋に入れたチョコを革の学生鞄に押し込み、ドキドキしながら学校に持っていった。朝のHRでは先生が型通りに「今日はチョコなんて持ってきた子、いないでしょうね」と念を押す。
禁じられていることを実行する、ということに少し罪悪感を覚えたが、それがまた何ともいえない快感でもあった。
放課後、女友達の協力を得てO君を校舎の陰に呼び出す。飄々とやってきた彼の面持ちは、まさかチョコを渡されるなんて予想もしていないように見えた。
私のドキドキも最高潮に達する。けど、しっかり言わなくちゃ。
「はい、これ、チョコレート…あげる!」
「?……………あ、ありがとう…」
人懐っこい目を一層丸くして、彼は言った。キツネにつままれたような気分だったに違いない。
その間、ほんの15秒足らず。甘酸っぱい私のファースト・バレンタインだった。

その日、家に帰ってから私は自分のしたことを後悔し始めた。O君に渡してしまったことにより、もう明日から恥ずかしくて彼と話せないような気がしたのだ。
こんなことなら、クラスも違って顔も合わすことのないT君にあげたほうがずっと良かった、当初の予定どおり…と後悔の念が強く残った。

そして翌日。
不安な気持ちで登校した私に、先に来ていたO君は振り返って、ちょっと照れくさそうに、でもきっぱりと爽やかに言った。
「昨日は、チョコレート、ありがとう!」
いつもの人懐っこい笑顔だった。
何と答えたか覚えていない。でもこれで、また普通にO君と話せる、との安堵感に覆われたのだった。

義理チョコなんて概念のなかった時代、純粋だった頃のバレンタインの思い出は、今でも色褪せず残っている。
もう二度とできない経験…だろうなぁ~。
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by gbsatomi | 2005-02-09 17:12 | DIARY


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